京王線のパンダ

最近子供の頃を妙に思い出します。死ぬのかな(たぶん歳をとっただけ)。
昭和50年代頃だと思いますが、京王線の新宿駅にでっかいパンダのぬいぐるみロボットがいたんですよ。そいつはブースの中から甲高い声で何かしゃべりながらスタンプ押してくれるんです。どんなスタンプか忘れました。スタンプを持ったパンダの右手の下に紙をスッと差し出すと甲高い声で何か言いながらペッタン!と押してくれるのです。かわいいではないですか。
私は本当に生まれつき動物が大好きです。パンダはそのランキングの中でも常に上位に食い込む人気コンテンツでした。今でも。
私は元来とても慎重な性格なのですが、その頃まだ世界のしくみがよくわかってない人間の途中段階でしたので、時に思いついたことを即座に行動に移してしまうことも稀にございました。
ああ、あの動くパンダの手の下に自分の手を入れてみたい!と思ってしまったのです。魔がさす、とはそういう瞬間でしょうか。
パンダと特殊なコミュニケーションを取りたかったのかもしれません。
お分りでしょうか?紙一枚の薄さのものにスタンプを押す圧。そこに手を入れてしまう愚。
あの時一瞬迷っていれば、傷つくこともなかったでしょう。でも私はその衝動を止めれらなかったのです!私はスッと、その手の下に自分の小さなおててを、差し出してしまったのです。
パンダはやはり甲高い声で何かアピールしながら、容赦無く紙一枚と全く同じ圧で、私のおててに「ぺったんーーー!」とスタンプを押してくれました。
ぎゅうううう、とスタンプがてのひらに押し付けられるその瞬間は永遠に感じれらました。そしてあんなにかわいかったパンダへの急激な憎しみと、自分の浅はかさへの猛烈な後悔に襲われました。
私のおてての骨が粉砕せずに済んだのはパンダの最後の慈悲だったのでしょうか。
痛い、痛い、超いっっってえ!と思いながらその永遠を耐え、私の手には血のような赤いスタンプがはっきりと押されておりました。もしかしたらあれは本当に血だったのかもしれません。
私は本当は大変慎重で奥ゆかしいはずの自分の突飛な行動を恥じ、その場では押し黙っておりました。

超痛かったです。
パンダは今でも大好きです。

奇跡的にデイリーポータルZにそのパンダの写真を見つけましたのでリンクを貼っておきます。
https://backnumber.dailyportalz.jp/cs/mitekite/detail/081014083969/1.htm

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